なぜ改善提案制度は失敗したりうまく行かなかったりするか。

2017/01/25
なぜ改善提案制度は失敗したりうまく行かなかったりするか。
色々な会社で改善提案活動がなされていますが、有効な成果を上げているという話は中々聞かないものです。
それも当然で、そもそもの改善提案の目的を理解しないままに改善提案制度を導入している会社が多い。
改善提案制度の真の目的は、社員のやる気、士気すなわちモチベーションを底上げする事。
これを理解しないと、トヨタのように大きな成功を収められないのです。

そもそも会社組織が上手く行くためには優秀な人材が必要ですが、その優秀な人材はどこにいるか?
実は全ての会社にいるすべての従業員が、優秀な人材なんです。
しかし殆どの会社がうまく利用できないため、「あいつは使えないやつだ」と経営者やリーダーの不甲斐なさを平社員に押し付けるんですね。
これが社員のやる気をダウンさせる。
社員にやる気があれば、経営者やリーダーが思っている以上の成果を上げることができるのです。
しかしこの時代、社員のモチベーションを上げるのは非常に困難。
先行きは不透明で、給料は上がらないし、会社の待遇も良くなる見込みもない。
「ウチの会社は潰れない!」と言った所でシャープやゼネラルモータースが事実上倒産した今の時代では説得力ゼロです。
こんな感じでモチベーションが上がるどころか下がる要因が山盛り。
これでは社員に口先だけで「やる気を出せ」といった所でやる気なんて出る訳がない。
良くて「はいはい、わかりましたよ」となんともやる気のない返事が帰ってくるだけで、「はい!頑張ります!」なんて返事が返ってくるのは新入社員くらいなもの。
実際頑張るか、成果をあげられるかどうかは全くの別問題ですが。


まずサラリーマンが働く理由とは何か?
それは生活をするためのカネを稼ぐのが最大の目的です。
これがサラリーマンの至上命題であり、これこそがサラリーマン最大のモチベーションと言っても過言ではない。
給料を上げれば割と簡単にサラリーマンの士気は上がります。
これが分かっている企業は高い給料によって社員の士気を高めていますが、会社運営だけで精一杯の企業が多い中、賃金を容易に上げる訳には行きません。
また、一時的に賃金アップでモチベーションを上げたとしても給料をダウンさせるとモチベーションが下がるどころか最悪の場合は社員が逃げ出します。
きっと給料を下げると発表した時点か、次の賞与の直後に経営者やリーダーの机には退職届が山積みになるでしょう。
この場合は優秀な人材から逃げ出します。
社員退職は会社にとって致命的な損害ですので絶対に回避しなければならない。
何しろ一度逃げた人材は帰ってきませんし、この人材不足の時代に新たな人材を確保する事も困難になっています。
その上辞めた人の分仕事量が増え、仕事のきつさに音を上げて辞める社員が増える最悪の循環が始まります。
という訳で、賃金を上げてモチベーションを維持しようというのは会社自体に相当な体力がなければ非常に困難なのです。


ではカネではない方法で社員のモチベーションを上げるにはどうしたら良いのか。
それは褒める事。
「褒めるも何も、給料やってるじゃないか」とお思いの方もおられるでしょうが、給料は労働に対する対価であって報酬ではありません。

それに経営者やリーダーに「君の成績は素晴らしいじゃないか!今後とも宜しく頼むぞ」と言われれば、悪い気分の社員はいません。
それどころか「もうちょっと頑張ってみようかな」と前向きな気分になるのですね。
これこそモチベーションの源泉。
しかし、言うは易し行うは難し。
そもそも社員が成果を上げられるような事案は非常に少ないんです。
更に事務員に関してはほとんどがルーチンワークなので褒めるポイントが無い。
これは困ります。


前置きが非常に長くなりましたが、そこで登場するのが改善提案なのです。

改善提案を出した社員に対して「良いアイディアじゃないか!流石は○○君だ」と言ってやれば社員も悪い気分ではありません。
それに、ルーチンワークの事務員も改善提案は出せますよね。

そこで「100万円くらい一気にカイゼンする案件は無いかな」「会社がドカンと変わるアイディアは出ないかな」と期待している経営者やリーダーは多いものですが、残念ながら初期の改善提案でそんなものは出ません。
高度経済成長期ならともかく、今の時代にそんな夢の様なアイディアは存在しませんし、そんなに大きな無駄もほとんど存在しません。

ですから出てくるアイディアのほとんどは、「58円で製造している製品を56円で製造する手段を見つけた」などの小さいものばかりでしょう。
しかし、ここで絶対に「そんな小さな話など不要だ」と否定してはいけません。
例えこの先必ず失敗しそうなことでも、とりあえず採用してみるのです。
何故か。
改善提案活動の最大の目的は社員のモチベーションアップだからです。
社員を褒めてやれる機会が少ないのであれば、会社が褒めてやれるような機会を作ってやればよいのです。
それが改善提案活動の真の狙い。
失敗したり採用されなかったりしても「今回はうまく行かなかったが気にするな。次回を期待しているぞ」と言ってやれば社員は悪い気がしません。
採用するときに「こんな事に気がつくとは流石だな」と言ってやれば、社員はちょっとイイ気分。
ついでに褒章として500円くらい給与につけてみれば、ちょっとしたお小遣いになってちょっとイイ気分。

そして全て提案内容を真面目に本気で検討しましょう。
そして、きちんと検討の過程、採用不採用の理由を詳細に説明しなければいけません。
一度でも頭から拒否すると「どうせこんな事だろうと思ったよ」「どうせ提案しても否定されるだけだ」とネガティブな思考になり、その後の提案が出なくなる上にモチベーションが一気に下がります。

そして提案が出なくなり、それまで通りに社員のモチベーションが上がらないといった状態になるのです。
改善提案で最重要なのは、提案によって会社経営が安定することではないのです。
社員のモチベーションを上げることで、会社の経営を安定させることが目的なのです。
ここを勘違いすると、すべての改善提案は失敗します。
実は「改善提案を出せ!」と言わなくても、モチベーションが上がれば改善提案は勝手に出てくるものです。

そう。
改善提案は新たな改善提案を呼び、どんどん新しいアイディアが出てくるのです。
改善提案が良いサイクルに乗ってくれば、もしかすると将来会社を支えるレベルのとんでもないアイディアが出てくるかもしれません。
最初からは素晴らしい改善提案は絶対に出ません。
小さい改善の繰り返しが大事です。


そして、細かいカイゼンを繰り返すことで会社の小さな無駄がなくなり効率が少しだけ上がるのも事実。
例え1円のカイゼンでも100回やれば100円。
それを100回やれば1万円です。
ほとんどの経営者はリーダーはここしか見ていないので成果が出ないのですが、本来の改善活動がうまくいけば、改善活動自体で発生した小さなカイゼンによっても会社の動きが良くなっていきます。


トヨタが成功している企業だからと言っても、その1つだけ真似た所で真意を理解しなければ成功するはずがありません。
トヨタはカイゼンによって社員の士気を維持し、なおかつ高い給料で社員の士気を上げ、その高まった士気で有効なカイゼンができているので強いのです。
会社、仕事関連コラム
01.カイゼン



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